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東京高等裁判所 昭和44年(行コ)37号 判決

控訴人(原告) 長場寛大 外三名

被控訴人(被告) 長野郵政局長

訴訟代理人 小木曾茂 外四名

主文

原判決を取消す。

本件を長野地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和三八年五月一日付でした控訴人長場に対する停職三月、控訴人芋川に対する停職一月、控訴人新保に対する停職三月、控訴人渡辺に対する停職一月の各懲戒処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に附加するほかは、原判決事実摘示の通りであるから、これを引用する(原判決一三枚目表三行目に「移換」とあるのを「移管」と訂正する)。

控訴代理人は次のように述べた。

「国家公務員法第九二条の二は、同法第八九条第一項に規定する処分の取消の訴えは、審査請求また異議申立に対する人事院の裁決または決定を経た後でなければ、提起することができない旨を規定しているけれども、公労法第四〇条第三項は、不当労働行為に該当する処分については行政不服審査法による不服申立をすることができない旨を規定しており、その趣旨は手続の重複、判断の抵触を避けるとともに、不当労働行為に関する判断は人事院よりも公労委がする方がより適当であるから、公労委に委せるにあると解される。従つて、本件のように公労法の適用を受ける控訴人らが、本件処分が不当労働行為に該当するとして、その取消を求める場合は、国家公務員法第九二条の二の適用がないことは明白であるから、被控訴人らの本案前の抗弁は失当である。なお、控訴人らは本件処分が不当労働行為に該当するとして公労委に救済申立をするとともに(仮に本件処分について訴願前置の原則が適用されるとしても、右救済申立は訴願に当るものと解さるべきである)、本訴を提起したものであり、不当労働行為だけを本件処分の取消事由として主張するものであるが、不当労働行為に該当する処分は当然無効であるから、無効確認の趣旨をも含めて、本件処分の取消を求めるものである」

被控訴代理人は次のように述べた。

「公労法第四〇条第三項は、いわゆる三公社五現業の職員に係る処分であつて不当労働行為に該当するものについては行政不服審査法によつて不服申立をすることができない旨を規定しているけれども、右職員が人事院に懲戒処分について不服申立をするに当つては、単に法定の懲戒事由のないことを述べれば足りるのであるから、合わせて右処分が不当労働行為に当ると主張することは懲戒事由のないことの事情として主張するに過ぎないことと、不当労働行為制度は職員の団結権の擁護を主たる目的とし、その身分保障を直接の目的としていないのに対し、人事院制度の目的は、国家公務員の懲戒に関していうならば、国家公務員法により保障された職員の身分または利益が、同法の規定に基かないで、不当に奪われないように適切な保護を与えることにあり、労働者の団結権を保障することにはないこととを考え合わせると、右公労法の規定の法意は、結局、国家公務員法所定の懲戒事由の形式的存在を認めながら、なお、これを理由とする懲戒処分がその実質において不当労働行為であることを主張する場合は、もつぱら不当労働行為を主張して団結権の侵害に対する救済を求めるに帰するから、公労委に対して救済申立をするのであれば格別、本来職員の身分、利益を不当な侵害から守ることを使命とする人事院に不服申立をすることは許されない旨を、立法政策上の配慮により、明らかにしたにとどまるものであり、本件のように、法定の懲戒事由の不存在を主張し、合わせて、これを支持すべき情況的事実として不当労働行為に該当する旨を主張しているに過ぎない場合においては、これを人事院に対する不服申立において主張しうることは当然である。従つて、いやしくも法定の処分事由のないことを主張して、その取消を提訴しようとする者は、まず、国家公務員法第九二条の二により人事院に対し行政不服審査法による不服申立をすべきであり、その手続を経由していない本訴は不適法として却下さるべきである」

理由

被控訴人の本案前の抗弁について判断する。

控訴人らが郵政職員であることは当事者間に争いがなく、控訴人らが法定の期間内に人事院に対し本件処分について審査請求をしていないことは弁論の全趣旨により認められるけれども、公労法第四〇条第三項の立法趣旨は手続の重複、判断の牴触を避けるとともに、不当労働行為に関する行政的判断は公労委のみに委せることにあると解されるから、不当労働行為以外にも違法事由がある場合、同一処分であつても、不当労働行為以外の違法事由を不服の理由とする場合は、行政不服審査法による不服申立ができるが、不当労働行為を不服の理由とする場合は、不服申立はできないものと解するのが相当であり、従つて、控訴人らが不当労働行為を本件処分の取消事由として主張している本件については、控訴人らは右以外の違法事由を、事情としてならば格別、取消事由として主張することは許されないけれども、国家公務員法第九二条の二の適用はないものと解すべきであるから、被控訴人の本案前の抗弁は採用することができない。

よつて、本件はさらに本案について審理すべきであるから、民事訴訟法第三八六条、第三八八条に従い、主文のように判決する。

(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 吉江清景)

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